乳首の痒みは、様々な要因によって引き起こされます。その多くは日常的な習慣や環境によるものですが、中には皮膚の病気や体の状態が関係している場合もあります。まずは、比較的多く見られる原因から見ていきましょう。
乳首の痒いがつづいく原因について
日常生活における原因
乳首の皮膚は非常に薄くデリケートです。そのため、ちょっとした刺激や環境の変化にも敏感に反応し、痒みを引き起こすことがあります。
乾燥によるかゆみ:皮膚のバリア機能と保湿の重要性
私たちの皮膚は、表面の角質層がバリアとなり、外部からの刺激や乾燥から体を守っています。このバリア機能が低下すると、皮膚内部の水分が失われやすくなり、乾燥が進みます。乾燥した皮膚は非常に敏感になり、通常なら何も感じないような軽い刺激にも過敏に反応して痒みを感じやすくなります。
特に乳首は、衣類との摩擦や洗顔料・ボディソープの成分などが直接触れる機会が多く、乾燥しやすい部位です。空気が乾燥する秋冬はもちろん、夏のエアコンや紫外線、洗浄力の強いボディソープの使用なども乾燥を招く原因となります。皮膚のバリア機能が低下した状態では、わずかな刺激物質でも容易に侵入し、炎症やかゆみを引き起こしてしまうのです。
下着など衣類による摩擦・刺激:素材、サイズ、洗濯の影響
常に肌に触れている下着は、乳首の痒みの大きな原因となり得ます。
- 素材: 化学繊維やレースなど、肌触りが硬い素材は皮膚との摩擦が大きくなり、刺激となります。特に合成繊維は通気性が悪く、汗やムレの原因にもなりやすいです。一方、綿やシルクなどの天然素材は肌触りが優しく、通気性・吸湿性にも優れているため、比較的刺激が少ないとされています。
- サイズ: サイズが合わない下着、特に締め付けがきついブラジャーは、血行を妨げるだけでなく、継続的な摩擦や圧迫を引き起こします。これにより、乳首の皮膚が物理的なダメージを受け、炎症や痒みが生じやすくなります。逆に緩すぎる下着も、動くたびに擦れることで刺激となることがあります。
- 洗濯: 下着に残った洗剤や柔軟剤の成分が、皮膚への刺激となることがあります。特に蛍光増白剤や香料、漂白剤などが含まれる洗剤は、敏感肌の方にとっては痒みを引き起こす原因となりやすいです。洗濯のすすぎが不十分な場合も、洗剤成分が残りやすくなります。新しい下着を着用する前に一度洗濯するのは、製造過程で付着した物質を落とし、生地を柔らかくするためにも推奨されます。
汗やムレ:なぜムレが痒みを引き起こすのか?
汗は体温調節のために重要な役割を果たしますが、汗腺から分泌された汗が蒸発せずに皮膚表面に留まると、皮膚がふやけた状態(浸軟)になります。この状態は皮膚のバリア機能を低下させ、外部からの刺激物質が侵入しやすくなります。
さらに、汗や体温によって下着の内側は高温多湿な環境になりやすく、雑菌やカビ(真菌)が繁殖しやすい状態が生まれます。これらの微生物が代謝する際に放出される物質が皮膚を刺激し、痒みや炎症を引き起こすことがあります。特に夏場や運動後、通気性の悪い衣類を着用している場合に、汗やムレによる痒みが起こりやすくなります。
アレルギー反応(接触性皮膚炎など):原因物質とメカニズム
特定の物質が皮膚に触れることで、アレルギー反応や刺激反応が起こり、炎症やかゆみが生じるのが接触性皮膚炎です。乳首周辺では、以下のような物質が原因となることがあります。
- 下着の素材: 前述したように、特定の化学繊維や染料にアレルギーがある場合。
- 洗剤・柔軟剤: 下着に付着した成分が原因となる場合。
- 石鹸・ボディソープ: 洗浄成分や香料、添加物が刺激となる場合。
- 化粧品・ボディクリーム: 乳首周辺に使用する製品が原因となる場合。
- 薬: 塗り薬の成分に対するアレルギー反応。
- 金属: ブラジャーのワイヤーや装飾品など。
- 植物: 衣類を介して触れた特定の植物(ウルシなど)。
アレルギー性の接触性皮膚炎は、原因物質に触れてから数時間~数日後に症状が現れる遅延型アレルギー反応が多いです。原因物質に触れた部分に一致して、赤み、腫れ、水ぶくれ、強いかゆみといった症状が出現します。一度アレルギーを獲得すると、少量でも反応が出やすくなります。
ホルモンバランスの変化と関連するかゆみ:ライフステージ別の影響
女性の場合、ホルモンバランスの変化が皮膚の状態に影響を与え、乳首の痒みにつながることがあります。
- 月経周期: 生理前にプロゲステロンが増加すると、体に水分を溜め込みやすくなり、同時に皮膚がむくみやすくなったり、敏感になったりすることがあります。この時期に乳首が張ったり、痒みを感じたりする方もいます。
- 妊娠: 妊娠中は女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)が大きく変動します。
これにより、全身の皮膚が乾燥しやすくなったり、色素沈着が起こりやすくなったりします。乳房も大きくなり、皮膚が引っ張られることで乾燥や痒みが生じることがあります。また、乳首や乳輪が敏感になり、わずかな刺激でも痒みを感じやすくなることもあります。 - 授乳: 授乳中は、赤ちゃんがおっぱいを吸うことによる物理的な刺激や、おっぱいの成分、湿潤環境などにより、乳首が荒れたり、痒みが出たりすることがあります。カンジダなどの感染症を起こしやすい時期でもあります。
- 更年期: 更年期には女性ホルモン(特にエストロゲン)が減少します。エストロゲンは皮膚の水分量やコラーゲン生成に関わっているため、減少すると皮膚が乾燥しやすくなり、バリア機能が低下して痒みを感じやすくなります。
男性の場合も、加齢によるホルモンバランスの変化や、特定の疾患によるホルモン異常が皮膚の状態に影響を与える可能性は否定できませんが、女性ほど顕著な影響は少ないと考えられます。
乳首の痒みで考えられる病気
日常的な原因以外に、乳首の痒みは何らかの病気のサインである可能性もあります。多くは皮膚の病気ですが、稀に注意が必要な病気が隠れていることもあります。
皮膚疾患が原因の場合
乳首の痒みを引き起こす皮膚疾患はいくつかあります。これらの疾患は、痒み以外にも様々な皮膚症状(赤み、湿疹、ただれなど)を伴うことが多いです。
湿疹・皮膚炎
湿疹(皮膚炎)は、皮膚に炎症が起きている状態の総称です。特定の原因がはっきりしない場合も多く、痒みに加えて赤み、ブツブツ(丘疹)、水ぶくれ(小水疱)、ただれ(びらん)、かさぶた(痂皮)、皮膚が厚くなる(苔癬化)など、様々な症状が混在して現れます。乳首や乳輪は湿疹ができやすい部位の一つです。原因としては、前述した乾燥、摩擦、汗、洗剤などの刺激物質、体質(アトピーなど)などが複雑に関与していると考えられます。
湿疹の症状は、急性期には強いかゆみ、赤み、水ぶくれが目立ち、慢性期になると皮膚が厚くゴワゴワしたり、色素沈着を起こしたりすることがあります。繰り返しやすい性質があり、掻き壊すことでさらに悪化する「痒みと掻破の悪循環」に陥りやすいです。
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能異常、アレルギーを起こしやすい体質(アトピー素因)、そして環境的な要因が複合的に関与して発症する、慢性の皮膚疾患です。強い痒みと、良くなったり悪くなったりを繰り返す湿疹が特徴で、体の中でも特定の部位(首、肘の内側、膝の裏など)に湿疹ができやすい傾向があります。
乳首や乳輪もアトピー性皮膚炎ができやすい場所の一つで、痒みが強く、皮膚が乾燥してカサカサしたり、赤く腫れたり、ただれたりすることがあります。特に思春期以降の女性で、乳首・乳輪にアトピー性皮膚炎の症状が現れやすいことが知られています。
接触性皮膚炎
前述の日常生活における原因でも触れましたが、特定の物質が触れることでアレルギー反応や刺激反応が起こり、湿疹やかゆみが生じる病気です。原因物質に触れた部分に境界明瞭な赤み、腫れ、水ぶくれ、強いかゆみが現れるのが特徴です。原因物質を特定し、それを取り除くことが治療の基本となります。乳首では、下着や洗剤、外用薬などが原因となることが多いです。
脂漏性皮膚炎
皮脂の分泌が多い部位(頭皮、顔、脇の下、胸の中央など)にできやすい湿疹で、皮膚に常在するマラセチアという真菌(カビ)が関与していると考えられています。乳首や乳輪は皮脂腺が比較的多い部位ではありませんが、乳輪の外側や胸の中央部分から症状が広がる形で乳首に及ぶことがあります。赤みのある湿疹に加え、黄色っぽい油っぽいかさぶた(鱗屑)が付着するのが特徴です。痒みは様々で、あまり強くないこともあります。
真菌(カビ)感染症(カンジダなど)
カンジダ菌は、口腔や消化管、皮膚などに常在する酵母菌の一種ですが、体の抵抗力が低下したり、湿潤な環境になったりすると異常に増殖して症状を引き起こすことがあります。乳首周辺は、授乳中の女性などで湿った環境になりやすく、カンジダ感染が起こりやすい部位です。
カンジダによる乳首の感染症は、非常に強い痒み、赤み、光沢のあるただれ、皮膚の剥がれ(落屑)、境界がはっきりした紅斑、時に白いかすのような付着物などが特徴です。授乳中の場合は、赤ちゃんのお口の中のカンジダ(鵞口瘡)と相互に行き来することで繰り返すこともあります。ステロイド外用薬を使用すると、かえって悪化することがあるため注意が必要です。
稀なケース・注意が必要な病気
乳首の痒みの原因としては非常に稀ですが、見逃してはいけない病気もあります。
乳房パジェット病(乳がんの一種)
乳房パジェット病は、乳首や乳輪に発生する比較的稀なタイプのがんで、多くの場合、乳管内がんなどの他の乳がんを合併しています。初期症状が湿疹や皮膚炎に非常に似ているため、見過ごされたり、湿疹として治療されてしまったりすることがあります。
症状としては、乳首や乳輪の片側だけに見られる湿疹やただれ、かさぶた、皮膚の剥がれ、赤み、強いかゆみ、灼熱感(ヒリヒリ感)、痛みなどがあります。一般的な湿疹治療(ステロイド外用薬など)をしても改善しない、あるいは悪化していくのが特徴です。進行すると、ただれがひどくなったり、乳首がただれて平らになったり、凹んでしまったりすることもあります。
乳房パジェット病は、早期に診断して適切な治療を行えば予後が良い場合も多いですが、発見が遅れると進行してしまうリスクがあります。したがって、乳首や乳輪の湿疹や痒みが、保湿や市販薬で改善しない場合、特に片側だけに見られる場合は、必ず専門医(皮膚科または乳腺科)を受診することが非常に重要です。
乳首の痒みと乳がんの関連性について
乳首の痒みがあると、「もしかして乳がんかも?」と不安になる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、多くの乳首の痒みは良性の皮膚疾患によるものです。
乳首の痒みだけで乳がんの可能性は低い
繰り返しになりますが、乳首の痒みだけを症状として乳がんである可能性は非常に低いです。痒みの原因として最も一般的なのは、乾燥、摩擦、汗などの日常生活による刺激や、湿疹、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、カンジダなどの皮膚疾患です。これらの良性の原因が、乳首の痒みの大部分を占めます。
ただし、湿疹やただれが改善しない場合は要注意
前述した乳房パジェット病は、乳がんの一種でありながら、初期症状が痒みや湿疹として現れます。この点が、一般的な皮膚疾患による湿疹と区別する上で非常に重要です。
一般的な湿疹は、保湿ケアやステロイド外用薬などで比較的早く改善することが多いです。しかし、乳房パジェット病の場合は、これらの湿疹治療に反応しない、あるいは一時的に改善してもすぐに再発する、または徐々に悪化していくという経過をたどることが特徴です。
症状 | 一般的な湿疹・皮膚炎 | 乳房パジェット病 |
---|---|---|
痒み | 強いことが多い | 強いことが多い |
赤み | あり | あり |
湿疹・ただれ | あり、境界不明瞭なことも多い | あり、境界が比較的はっきりしていることが多い |
症状の部位 | 両側に見られることも、片側だけの場合も | ほとんどの場合、片側だけに見られる |
症状の経過 | 治療で改善しやすい、繰り返すことがある | 湿疹治療で改善しにくい、徐々に悪化することがある |
皮膚の変化 | 乾燥、落屑、時に水ぶくれ、かさぶたなど | 落屑、かさぶた、びらん、潰瘍形成、乳首の変形・陥没 |
しこりの合併 | 基本的になし | 約半数で乳房内にしこりを伴う |
痛みの有無 | ありうる | 灼熱感、痛みを伴うことがある |
このような特徴から、乳首や乳輪の湿疹や痒みが「なかなか治らない」「徐々にひどくなっている」「片側だけずっと続いている」といった場合は、単なる湿疹ではない可能性を考え、念のため医療機関を受診することが強く推奨されます。特に、見た目が湿疹のように見えても、上記の表でパジェット病の特徴に当てはまる点がある場合は、専門医に相談することが重要です。
乳首の痒みに自分でできる対処法
日常的な原因による乳首の痒みであれば、セルフケアで症状を和らげたり、改善させたりすることが可能です。ただし、症状がひどい場合や長引く場合は、必ず医療機関を受診しましょう。
保湿ケアを徹底する:正しい保湿方法と製品選び
乾燥は痒みの大きな原因です。乳首周辺の皮膚はデリケートなので、優しく丁寧な保湿が重要です。
- 正しい保湿方法: 入浴後など、皮膚が清潔で少し湿っている状態の時に保湿剤を塗るのが効果的です。ゴシゴシ擦らず、指の腹で優しく押さえるように塗布しましょう。量は、皮膚がしっとりする程度が目安です。一日に数回、特に乾燥を感じやすいタイミング(入浴後、朝、日中など)で塗ると良いでしょう。
- 製品選び: 敏感肌用の化粧水、乳液、クリーム、ワセリンなど、刺激の少ない保湿剤を選びましょう。香料やアルコール、着色料などが含まれていないものが望ましいです。成分表示を確認し、「敏感肌用」「低刺激性」「無添加」などと記載されている製品を選ぶと安心です。特に乾燥がひどい場合は、ワセリンなどの油分が多いものが皮膚のバリア機能を補強するのに役立ちます。新しい製品を使う際は、まず腕の内側など目立たない部分で少量試してみて、肌に合うか確認(パッチテスト)するとより安全です。
下着選びの見直し:推奨される素材と選び方
肌に直接触れる下着を見直すことも、痒みを軽減するために有効です。
- 推奨される素材: 綿(コットン)やシルクなどの天然素材は、肌触りが柔らかく、吸湿性・通気性に優れているため、皮膚への刺激が少なく、ムレにくいです。痒みがある間は、できるだけ天然素材の下着を選びましょう。
- 選び方: サイズは、締め付けすぎず、かといって緩すぎない、自分の体にフィットするものを選びます。ワイヤーやレースが多いもの、縫い目がゴワゴワしているものは避け、できるだけシンプルなデザインで肌に当たる部分が少ないものが良いでしょう。就寝時は、締め付けのないノンワイヤーのブラジャーや、締め付けの少ないキャミソールなどを着用するのもおすすめです。
- 洗濯: 洗剤は、界面活性剤が少なく、蛍光増白剤や香料が無添加の「肌着洗い用」や「敏感肌用」を選ぶと良いでしょう。柔軟剤の使用は控えるか、使用する場合は少量にし、しっかりすすぎを行うことが重要です。
清潔を保つためのケア:正しい洗浄方法
皮膚を清潔に保つことは大切ですが、洗いすぎはかえって乾燥を招き、痒みを悪化させる可能性があります。
- 正しい洗浄方法: 入浴時は、ボディソープをよく泡立てて、手で優しく洗います。ナイロンタオルなどでゴシゴシ擦るのは厳禁です。石鹸成分が残らないように、ぬるま湯でしっかりと洗い流しましょう。洗浄力の強すぎるボディソープは避け、低刺激性のものや、敏感肌用の弱酸性のものを選ぶのがおすすめです。一日に何度も体を洗う必要はありません。
- 汗対策: 汗をかいたら、濡らしたタオルやウェットティッシュなどで優しく拭き取るか、シャワーを浴びるなどして、できるだけ早く汗を取り除きましょう。外出先で難しい場合は、汗拭きシートなどを使用するのも良いですが、アルコール成分などが含まれていない、肌に優しいタイプを選びましょう。
生活習慣の見直し:食事、睡眠、ストレス管理
皮膚の状態は、体の内側の状態を反映することが多いです。健康的な生活習慣を心がけることも、皮膚のバリア機能を保ち、痒みを軽減するために重要です。
- 食事: バランスの取れた食事を心がけましょう。
特に、皮膚の健康に必要なビタミン(ビタミンA, C, Eなど)、ミネラル(亜鉛など)、良質な脂質(オメガ3脂肪酸など)を積極的に摂取することが推奨されます。刺激物(辛いもの、アルコール、カフェインなど)は、痒みを増悪させる可能性があるので、控えめにしましょう。 - 睡眠: 睡眠不足は自律神経の乱れや免疫機能の低下を招き、皮膚の抵抗力を弱め、痒みを感じやすくすることがあります。十分な睡眠時間を確保し、質の良い睡眠をとることが大切です。
- ストレス管理: ストレスは自律神経やホルモンバランスを乱し、痒みの感じ方を強めたり、皮膚のバリア機能を低下させたりすることがあります。適度な運動、趣味、リラクゼーションなど、自分に合った方法でストレスを解消する時間を作りましょう。
市販薬の使用について:選び方と注意点、自己判断のリスク
乳首の痒みに対して、市販の塗り薬を使用することも選択肢の一つです。
- 市販薬の種類:
- 抗ヒスタミン成分配合薬: 痒みを抑える効果があります。軽度の痒みに用いられます。
- ステロイド外用薬: 炎症を抑える効果が非常に高いです。湿疹や皮膚炎による赤みや痒みに効果的です。市販薬には比較的強度の低いステロイドが配合されています。
- 非ステロイド性抗炎症薬: ステロイドよりも作用は穏やかですが、炎症を抑える効果があります。ステロイドに抵抗がある場合などに用いられます。
- 保湿成分配合薬: 痒みの原因が乾燥である場合に有効です。ヘパリン類似物質などが配合されています。
- 選び方と注意点: 症状に合わせて適切な成分を選ぶことが重要です。炎症(赤みや腫れ)が強い場合はステロイド外用薬が有効ですが、漫然と長期に使用したり、自己判断で強いランクのものを選んだりすると、皮膚が薄くなる、毛細血管が浮き出る、感染症にかかりやすくなるなどの副作用のリスクがあります。特に乳首周辺の皮膚は薄いため、強いステロイドの使用は避けるべきです。また、カンジダなどの真菌感染症による痒みにステロイド外用薬を使用すると、かえって症状が悪化することがあります。
- 自己判断のリスク: 市販薬である程度の症状が改善することもありますが、原因が特定できていない段階で自己判断で薬を使用し続けるのは危険です。特に、症状が改善しない、悪化する、あるいは原因がカンジダや乳房パジェット病であった場合、不適切な治療により病気の発見や治療が遅れてしまう可能性があります。市販薬を使用しても症状が改善しない場合は、必ず医療機関を受診しましょう。薬剤師に相談する際は、症状を具体的に伝え、乳首に使用することを伝えると適切なアドバイスが得られます。
乳首の痒みで病院を受診する目安
セルフケアで改善しない痒みや、特定の症状を伴う場合は、必ず医療機関を受診して専門医の診断を受けることが重要です。自己判断せずに、適切なタイミングで受診しましょう。
どんな症状があれば受診すべきか:具体的な症状と期間
以下の症状がある場合は、早期に医療機関を受診することを強く推奨します。
- セルフケア(保湿や下着の見直しなど)を2週間程度続けても、痒みや湿疹が改善しない、あるいは悪化している。
- 市販薬(特に湿疹用の塗り薬)を使用しても、症状が改善しない、あるいは悪化している。
- 乳首や乳輪に、強い赤み、腫れ、ただれ、びらん(皮膚のえぐれ)、かさぶた、皮膚の剥がれなどの症状を伴っている。
- 痒みや湿疹が、乳首・乳輪の片側だけに見られ、治りにくい。
- 乳首や乳輪の形、色、大きさに目に見える変化がある(陥没、引きつれ、変形など)。
- 乳首から透明、黄色、血液の混じった分泌物が出る。
- 乳房にしこりがある、またはしこりがあるように感じる。
- 乳首周辺だけでなく、乳房全体の皮膚が赤く腫れて熱を持っている。
- 強い痛みや灼熱感(ヒリヒリ感)を伴っている。
- 痒みによって夜眠れないなど、日常生活に支障が出ている。
- 症状が良くなったり悪くなったりを繰り返す(特に同じ場所に)。
これらの症状は、単なる乾燥や刺激によるものではなく、皮膚疾患(アトピー性皮膚炎の悪化、接触性皮膚炎、治りにくい湿疹、真菌感染症など)や、稀ながら乳房パジェット病などのより注意が必要な病気のサインである可能性があります。
何科を受診すれば良いか(皮膚科、乳腺科など):症状に応じた受診先の選び方
乳首の痒みで受診する場合、主に皮膚科または乳腺科が考えられます。
- 皮膚科: 乳首の痒みの原因の多くは皮膚疾患(湿疹、皮膚炎、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、真菌感染症など)です。これらの診断と治療は皮膚科の専門分野です。痒みや湿疹が主な症状で、乳房のしこりなど他の気になる症状がない場合は、まず皮膚科を受診するのが一般的です。皮膚科医は、症状の視診や、必要に応じて皮膚の一部を採取して検査(皮膚生検)を行うことで、正確な診断をつけて適切な塗り薬や飲み薬を処方してくれます。湿疹や皮膚炎だと思っても、皮膚科医の判断でより詳しい検査が必要と判断されたり、乳腺科への受診を勧められたりすることもあります。
- 乳腺科: 乳腺科は、乳房の病気を専門とする科です。乳がんや乳腺炎、良性のしこりなど、乳房全体の異常を診察します。乳房にしこりがある、乳首の形や色に変化がある、乳首から分泌物が出るなど、痒み以外の乳房の症状も伴う場合は、乳腺科を受診すべきです。また、乳首・乳輪の湿疹や痒みが「なかなか治らない」「片側だけずっと続く」といった場合、乳房パジェット病の可能性を否定するためにも、最初から乳腺科を受診する、または皮膚科からの紹介で乳腺科を受診することが重要です。乳腺科では、視診、触診に加え、マンモグラフィや超音波検査、組織検査(針生検など)が行われます。
どちらの科を受診すべきか迷う場合は、かかりつけ医に相談したり、症状を具体的に伝えて受付に確認したりするのも良いでしょう。まずは皮膚科を受診して、必要であれば乳腺科を紹介してもらう、という流れもスムーズです。
病院で行われる可能性のある検査
医療機関を受診した場合、診断のためにいくつかの検査が行われることがあります。
- 視診・触診: 医師が直接、患部の状態(赤み、腫れ、ただれ、皮膚の剥がれ、しこりの有無など)を観察し、触診します。
- 問診: 痒みがいつから始まったか、どのような時に痒いか、症状の経過、使用している下着や洗剤、アレルギーの既往、他の持病、服用中の薬、妊娠・授乳の状況など、痒みに関する詳細な情報を医師に伝えます。
- ダーモスコピー検査: 皮膚の表面を拡大して観察する検査です。湿疹やその他の皮膚病変の特徴を詳細に調べることができます。
- 顕微鏡検査: 皮膚の剥がれや分泌物を採取し、顕微鏡で真菌(カビ)やその他の病原体がいないか調べます。カンジダ感染症などを診断するのに役立ちます。
- 培養検査: 細菌や真菌感染が疑われる場合に、患部の検体を採取して培養し、原因菌を特定します。
- パッチテスト: 接触性皮膚炎が疑われる場合に、原因と思われる物質を皮膚に貼り付け、アレルギー反応が起きるか調べる検査です。
- 血液検査: アレルギー体質(アトピー素因)の確認や、炎症の程度などを調べるために行うことがあります。
- 皮膚生検: 診断が難しい場合や、乳房パジェット病などの悪性疾患が疑われる場合に、患部のごく一部を小さく切り取って顕微鏡で詳しく調べる検査です。
- 画像検査(マンモグラフィ、超音波検査、MRIなど): 乳腺科で、乳房内のしこりの有無や状態を調べるために行われます。乳房パジェット病が疑われる場合や、他の乳がん合併の有無を確認するために重要です。
これらの検査を組み合わせて行うことで、乳首の痒みの正確な原因を特定し、適切な治療法を選択することができます。
妊娠中・授乳期の乳首の痒み
妊娠中や授乳期は、ホルモンバランスの大きな変化や授乳による物理的な刺激により、乳首の痒みを感じやすい時期です。
妊娠中は乳房が大きくなることで皮膚が引っ張られ、乾燥しやすくなります。また、ホルモンの影響で皮膚が敏感になり、通常なら問題ない下着や保湿剤でも痒みを感じることがあります。妊娠期の痒みは、保湿ケアを徹底し、刺激の少ない下着を選ぶことで改善することが多いです。
授乳期には、赤ちゃんがおっぱいを吸うことによる摩擦や湿気、おっぱいの成分などが原因で乳首が荒れたり、亀裂ができたりして痒みや痛みを伴うことがあります。また、赤ちゃんのお口からカンジダ菌がうつり、乳首にカンジダ感染症を起こすことも比較的多いため注意が必要です。この時期の乳首の痒みは、保湿だけでなく、適切な授乳方法(深飲みさせるなど)、授乳後のケア(乾燥させる、保湿剤を塗るなど)が重要になります。痒みが強い場合や痛みを伴う場合は、自己判断せず、助産師や医師(皮膚科、乳腺科)に相談しましょう。カンジダ感染の場合は抗真菌薬による治療が必要です。
男性の乳首の痒みについて
乳首の痒みは女性に多いイメージがあるかもしれませんが、男性にも起こりうる症状です。男性の乳首の痒みの原因も、女性と同様に、乾燥、下着の摩擦、汗やムレ、洗剤や石鹸による刺激などの日常的な要因や、湿疹、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、稀に真菌感染症などが考えられます。
特に男性は、スポーツなどで体を動かす際にTシャツなどの衣類との摩擦が起こりやすく、痒みを生じることがあります。また、アトピー性皮膚炎のある方や、乾燥肌の方も乳首が痒くなりやすい傾向があります。
稀ではありますが、男性にも乳房パジェット病や男性乳がんが発生する可能性はあります。男性の乳房パジェット病も、女性と同様に乳首や乳輪の湿疹やただれ、痒みとして現れることが多いです。男性乳がんの症状としては、しこりや皮膚の引きつれ、乳首からの分泌物などがありますが、痒みを伴うこともあります。
男性の場合も、乳首の痒みがセルフケアで改善しない、悪化する、片側だけずっと続く、しこりなど他の気になる症状がある場合は、必ず医療機関(皮膚科または乳腺科/外科)を受診して診断を受けることが重要です。女性と同様に、早期発見・早期治療が大切です。
まとめ:乳首の痒みは原因を特定し適切に対処を
乳首の痒みは、不快であると同時に、体のサインである可能性も含まれる症状です。多くの場合、乾燥、摩擦、汗、洗剤などの日常的な刺激や、湿疹、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、カンジダなどの良性の皮膚疾患が原因であり、適切な保湿ケアや下着の見直し、清潔を保つこと、生活習慣の改善、そして市販薬の適切な使用で症状が和らぐことが期待できます。
しかし、中には治療が必要な病気(アトピー性皮膚炎の悪化、真菌感染症など)であったり、稀ながら注意が必要な病気(乳房パジェット病)が隠れている可能性も否定できません。特に、痒みや湿疹がセルフケアや市販薬で改善しない、悪化する、片側だけに見られる、ただれがひどい、乳首の形や色に変化がある、しこりがある、といった症状を伴う場合は、自己判断せず、早めに医療機関を受診することが極めて重要です。
受診すべき科は、痒みや湿疹が主な場合は皮膚科、しこりや乳首の変形など他の乳房の症状も伴う場合は乳腺科が良いでしょう。不安な場合は、まずは皮膚科に相談するのも一つの方法です。専門医による正確な診断を受けることで、痒みの原因を特定し、ご自身に合った適切な治療やケアを行うことができます。一人で悩まず、専門家のアドバイスを求めてください。
【免責事項】
本記事の情報は、一般的な知識を提供するものであり、医学的アドバイスや診断、治療を目的としたものではありません。個々の症状や健康状態に関しては、必ず医師やその他の資格を持つ医療専門家の診断を受けてください。本記事の情報に基づいて行われたいかなる行為についても、当方では一切の責任を負いかねます。