妊娠すると多くの女性が経験する「つわり」。吐き気やだるさ、食欲不振など、その症状は様々で、つらい時期を過ごす方も少なくありません。
このつわりはなぜ起こるのか、いつまで続くのか、そしてつらい時どう乗り切れば良いのか、多くの妊婦さんが抱える疑問や不安にお答えします。
この記事では、つわりの基本的な知識から、具体的な対処法、そして医療機関に相談すべきサインまでを詳しく解説します。
つわりとは?妊娠初期の一般的な症状
妊娠初期に多くの妊婦さんが経験する特有の不快な症状を総称して「つわり」と呼びます。
医学的には「妊娠悪阻(にんしんおそ)」と呼ばれることもありますが、一般的に使われる「つわり」は、日常生活に支障は出るものの、比較的軽度なものを指すことが多いです。
妊娠悪阻はつわりが重症化した状態で、治療が必要になります。
つわりは、妊娠によって引き起こされる体の劇的な変化に対応するために起こると考えられています。
特に、ホルモンバランスの変化が大きく関与しており、これによって消化器系の機能が変化したり、嗅覚や味覚が過敏になったりすることで様々な不快症状が現れます。
つわりは病気ではなく、妊娠という生理的な変化に伴う一時的な状態ですが、その症状の程度や種類は個人によって大きく異なります。
全く症状がない人もいれば、日常生活が困難になるほど重症化する人もいます。
つわりの定義と発生メカニズム
つわり(悪阻)は、妊娠初期に現れる吐き気や嘔吐を中心とした消化器症状、およびそれに伴う全身的な不調の総称です。
医学的には、これらの症状が始まるのは一般的に妊娠5週頃からで、ピークを迎えた後、妊娠12~16週頃には自然に軽快することが多いとされています。
しかし、この期間や症状の程度には大きな個人差があります。
つわりの正確なメカニズムは完全には解明されていませんが、いくつかの要因が複合的に関与していると考えられています。
最も有力な説の一つは、妊娠によって分泌されるホルモン、特にヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)の急激な増加が関わっているというものです。
hCGは、受精卵が子宮内膜に着床し、胎盤が形成され始める妊娠初期に大量に分泌されます。
このhCGが脳の嘔吐中枢や消化器系に作用し、吐き気や嘔吐を引き起こすと考えられています。
hCGの分泌量は妊娠初期にピークを迎え、その後減少していくため、つわりもそれに伴って軽快していく傾向があります。
hCGの血中濃度は、妊娠週数に応じて劇的に変化します。
妊娠4週頃から検出され始め、妊娠8〜10週でピークに達し、その後は急速に減少して妊娠16週頃にはピーク時の10分の1程度になります。
このhCGの変動パターンとつわりの始まり、ピーク、そして終わりの時期が多くの妊婦さんで一致することが、hCGがつわりの発生に深く関わっているという強い根拠となっています。
hCG以外にも、以下の要因がつわりの発生に関わっていると考えられています。
エストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンの増加: これらのホルモンも妊娠によって増加し、消化管の運動を鈍らせたり、胃酸の分泌に影響を与えたりすることで、吐き気やむかつきを引き起こす可能性があります。
特にプロゲステロンは、胃の出口を狭める幽門括約筋や、胃から食道への逆流を防ぐ下部食道括約筋を緩める作用があるため、消化物の停滞や逆流が生じやすくなります。
自律神経の乱れ: 妊娠による急激な体の変化や精神的なストレスが自律神経(交感神経と副交感神経)のバランスを崩し、胃腸の働きが不安定になったり、血圧や体温の調節がうまくいかなくなったりすることで、消化器症状やだるさ、眠気などを引き起こすことがあります。
精神的・心理的要因: 妊娠に対する不安やストレス、環境の変化などもつわりの症状を悪化させる可能性があります。
つわりの症状が始まる時期は、妊娠が確定し、今後の生活や出産・育児への期待と同時に不安も大きくなる時期と重なります。
このような精神的な側面が、自律神経やホルモン分泌に影響を与え、つらい症状につながることがあります。
つらい症状に意識が向きすぎると、それがさらに精神的な負担となり、悪循環に陥ることもあります。
免疫反応: 妊娠初期には、母体の免疫系が、半分異物である胎児を攻撃しないように免疫寛容という状態になります。
この免疫系の変化や、胎盤形成に伴う炎症反応などがつわりの症状として現れるという説もあります。
糖代謝の変化: 妊娠初期には、インスリンの働きを妨げるホルモンが分泌されるため、血糖値が不安定になりやすくなります。
特に食後高血糖とその後の急激な血糖低下(反応性低血糖)が起こりやすく、低血糖がつわりの吐き気を悪化させることもあります。
空腹時に吐き気が強くなる「食べづわり」は、この血糖値の変動に関連しているとも考えられています。
ビタミンB6の不足: ビタミンB6は神経伝達物質の合成に関与しており、特にセロトニンなどの働きに関わっています。
セロトニンは脳の嘔吐中枢にも影響を与えるため、ビタミンB6が不足すると吐き気を引き起こしやすいという報告もあり、つわりの症状との関連が指摘されています。
これらの要因が複雑に絡み合い、つわりの症状が現れると考えられています。
つわりは赤ちゃんが順調に成長している証拠の一つとも言われますが、つらい症状に耐えることは母体にとって大きな負担となります。
無理せず、適切な対処法を取り入れながら乗り切ることが大切です。
つわりの主な症状チェック
つわりの症状は非常に多様で、人によって全く異なります。
吐き気や嘔吐が代表的ですが、それ以外にも様々な症状が現れることがあります。
ここでは、つわりでよく見られる主な症状とその特徴を詳しく解説します。
ご自身の症状と照らし合わせてみましょう。
吐き気・嘔吐
つわりの症状として最もよく知られているのが、吐き気や嘔吐です。
これは「吐きづわり」とも呼ばれます。
朝起きた時に特に強く現れることが多いため「モーニングシックネス」とも呼ばれますが、実際には一日中吐き気が続いたり、特定の時間帯に限らず突然起こったりすることもあります。
特徴:
- 朝、目が覚めた直後から吐き気がする(空腹時につらい人が多い)。
- 一日中、波のように吐き気が押し寄せてくる。
- 食事中や食後に胃が重くなり、吐き気が強くなることがある。
- 特定のにおい(料理のにおい、タバコ、香水など)を嗅ぐと急に吐き気が誘発される(後述のにおいへの過敏さも関連)。
- 実際に食べ物や胃液を吐いてしまう。
吐くと一時的に胃がすっきりして楽になる場合と、吐いても吐き気が治まらず苦しい場合がある。 - 空腹すぎると胃液が上がってきて気持ち悪くなったり、満腹すぎると消化が悪くムカムカしたりと、胃の状態によって吐き気の程度が変わる。
- 歯磨きをする際に、オエっとなってしまう(咽頭反射が敏感になる)。
メカニズム: hCGなどのホルモンが脳の嘔吐中枢を直接刺激したり、消化管の動きをコントロールするセロトニンなどの神経伝達物質のバランスを崩したりすることで起こると考えられています。
また、胃の動きが鈍くなることで食べたものが胃に留まる時間が長くなり、胃酸の分泌と相まって不快感や吐き気を引き起こしやすくなります。
下部食道括約筋の弛緩による胃酸逆流も吐き気の一因となります。
影響: 継続的な吐き気や嘔吐は、食事や水分を十分に摂ることが難しくなり、体重減少や脱水を招く可能性があります。
特に水分が摂れない状態が続くと、母体への負担が大きくなり、これが重症化すると妊娠悪阻と診断され、点滴や入院による治療が必要になる場合もあります。
吐き続けることで食道や胃の粘膜が炎症を起こし、出血することもあります。
胃や胸のむかつき・げっぷ
吐き気を伴わないものの、常に胃がむかついたり、胸焼けのような症状を感じたりすることもつわりの一般的な症状の一つです。
「食べづわり」と呼ばれる場合、空腹時に特に胃のむかつきが強くなり、何かを食べると一時的に落ち着くことがあります。
特徴:
- 胃が常に重く、すっきりしない。
- 胸のあたりが焼けるような感じがする(胸焼け)。
- 酸っぱいものが口に上がってくる(呑酸)。
- げっぷが頻繁に出る。
食事中や食後に特に多くなる。 - 空腹になると胃が気持ち悪くなり、何か食べると一時的に楽になる。
- 食後、胃もたれがして消化に時間がかかる感じがする。
メカニズム: 妊娠によって増加するプロゲステロンには、消化管の筋肉を緩める作用があります。
これにより、胃の動き(蠕動運動)が鈍くなり、食物が胃に留まる時間が長くなります。
また、胃の入り口にある下部食道括約筋も緩みやすくなり、胃酸や胃の内容物が食道に逆流しやすくなります。
これが胸焼けや呑酸の原因となります。
胃の動きが鈍くなることで、胃の中でガスが溜まりやすくなり、げっぷとして放出される頻度が増加します。
食べづわりは、空腹による血糖値の低下がつわりの症状を悪化させることに関連していると考えられています。
何か食べることで血糖値が上がり、一時的に吐き気やむかつきが和らぐため、「食べると楽になる」と感じるのです。
影響: 継続的なむかつきやげっぷは不快感が強く、食欲不振につながることもあります。
特に食べづわりの場合は、空腹を避けるために常に何かを口にする必要があり、結果的に体重が増えすぎてしまう可能性もあります。
不快な症状が続くと、精神的なストレスも蓄積しやすくなります。
においへの過敏さ
妊娠初期には嗅覚が異常に鋭くなることがあります。
これはつわりの典型的な症状の一つで、今まで気にならなかった特定のにおいに対して強い吐き気や不快感を感じるようになります。
特徴:
- 炊きたてのご飯のにおいがダメになる。
- 特定の食品(肉、魚、油物、香辛料、カレーなど)を調理しているにおいや、冷蔵庫を開けた時の食品のにおいがダメになる。
- 洗剤や柔軟剤、シャンプー、石鹸などの生活用品のにおいが耐えられなくなる。
- 香水やタバコのにおいが非常に不快に感じる。
- パートナーや家族の体臭、口臭が気になってしまうことがある。
- 特定の場所(スーパーの鮮魚コーナー、飲食店、職場など)のにおいがダメで近づけなくなる。
メカニズム: ホルモンバランスの変化、特にエストロゲンが嗅覚を司る脳の領域に影響を与え、においに対する感受性を高めると考えられています。
妊娠によって嗅覚中枢や嗅覚神経の働きが変化し、微弱なにおいにも強く反応するようになります。
これは、妊娠中に母体が腐敗した食べ物や有害な化学物質など、胎児に危険を及ぼす可能性のあるものを本能的に避けるための防御反応ではないか、という進化論的な説もあります。
特定のにおいを「危険」と感知し、吐き気を誘発することで摂取を避けさせようとする体の働きと考えられます。
影響: 日常生活で避けることが難しいにおいによって、常に不快感や吐き気を感じることになります。
食事の準備や外食が困難になったり、通勤や買い物など外出が億劫になったりするなど、生活の質に大きく影響することがあります。
においに対する過敏さは、精神的なストレスも増大させます。
食欲不振と食の好みの変化
吐き気やむかつきに伴い、食事が考えられなくなるほど食欲がなくなることはよくあります。
また、今まで好きだったものが全く食べられなくなったり、逆に特定のものだけ無性に食べたくなったりと、食の好みが劇的に変化することもつわりの特徴です。
特徴:
- 食べ物を見るのも嫌になる、食事の時間を考えるだけで憂鬱になる。
- 冷蔵庫や食品庫を開けても、食べたいものが全く思い浮かばない。
- 特定の炭水化物(おにぎり、フライドポテト、麺類など)やフルーツ、ゼリーなど、限られたものしか受け付けない。
- 今まで苦手だったもの(例:ジャンクフード、特定の野菜)が急に食べたくなったり、逆に好きだったもの(例:魚、肉、野菜)が食べられなくなったりする。
- 甘いものが食べられなくなったり、しょっぱいものが欲しくなったりと、味の好みが変わる。
- 一度にたくさん食べられず、少量ずつしか食べられないか、全く食べられない。
- 常に何かを口にしていないと気持ち悪くなる(食べづわり)。
メカニズム: 吐き気や胃の不快感が直接的に食欲を抑制するのに加え、ホルモンの影響や嗅覚・味覚の変化が食の好みに影響を与えます。
妊娠によって味覚を感じる味蕾の感受性が変化したり、唾液の組成が変わったりすることも、食べ物の味が違って感じられる原因となります。
特定のものが食べたくなる「食べづわり」は、空腹による低血糖を避けようとする本能的な反応や、体が特定の栄養素(炭水化物や塩分など)を求めている可能性が考えられます。
影響: 食事から十分な栄養(特にビタミンやミネラル、タンパク質)を摂ることが難しくなり、体重減少や栄養不足の心配が生じます。
ただし、妊娠初期の胎児の成長に必要な栄養は、主に母体が妊娠前に蓄えた栄養や、この時期の少量摂取でも最低限供給されるため、多少食事が偏っても過度に心配する必要はありません。
食べられるものを食べられる時に摂るのが大切です。
長期にわたる極端な偏食や、水分・エネルギー不足が続く場合は注意が必要です。
眠気・だるさ(倦怠感)
つわりは消化器症状だけでなく、全身的な疲労感や強い眠気を伴うこともよくあります。
これは「眠りづわり」や「だるさづわり」と呼ばれることがあります。
特徴:
- 夜十分に寝ても、日中に我慢できないほどの強い眠気を感じる。
- 会議中や運転中など、集中しなければならない場面でも眠くなる。
- 一日中体が重く、鉛のようにだるさを感じる。
- ベッドやソファから起き上がるのが億劫になる。
- 今まで簡単にこなせていた家事や仕事が、非常に負担に感じる。
- 思考力が低下し、物事を判断するのが難しく感じる。
- 少し動いただけでもすぐに疲れてしまう。
メカニズム: 妊娠によって増加するプロゲステロンには、鎮静作用や眠気を誘発する作用があります。
これは、体を休ませて妊娠を維持しやすくするための体の防御反応とも考えられます。
また、妊娠初期は胎盤や胎児の形成という生命活動が活発に行われるため、母体は通常よりも多くのエネルギーを消費します。
急激なホルモン変化や体の変化に対応するためにエネルギーを使ったり、つらい消化器症状(吐き気、嘔吐、栄養不足など)によって体力が奪われたりすることも、だるさや眠気の原因となります。
貧血気味の場合もだるさを感じやすくなります。
影響: 強い眠気や倦怠感は、日常生活や仕事、家事育児に大きな支障をきたします。
集中力の低下は思わぬ事故につながる可能性もあります。
無理に活動しようとすると、疲労が蓄積し、つわりの症状がさらに悪化することもあります。
この時期は、いつも以上に十分な睡眠と休息を確保することが非常に重要になります。
その他のマイナーな症状
上記以外にも、つわりでは様々なマイナーな症状が現れることがあります。
これらの症状も不快感が強く、つわりをよりつらく感じさせる要因となります。
唾液過多(よだれづわり): 唾液腺の活動が活発になり、唾液の分泌量が異常に増え、常に口の中に唾液が溜まるような感覚になることがあります。
飲み込んでもすぐに溜まってしまい、不快感から吐き気につながることもあります。
中には、唾液を飲み込むのが気持ち悪く、常に吐き出す人もいます。
味覚の変化: 金属のような変な味がしたり、特定の味(甘味、苦味、塩味)に敏感になったり、味が感じにくくなったりすることがあります。
これが食事の味を変え、食欲不振の原因となることもあります。
特に金属味は、妊娠初期に多い鉄分不足と関連があるという説もあります。
頭痛: ホルモンバランスの変動、水分不足、寝不足、肩こりなどが原因で頭痛が起こることがあります。
吐き気と同時に現れることもあります。
便秘や下痢: プロゲステロンによる消化管の動きの鈍化や、食事内容の変化、水分不足などにより便秘になりやすくなる人が多いですが、ストレスや特定の食べ物への反応で下痢気味になる人もいます。
肌荒れ: ホルモンバランスの変化が肌の状態に影響を与え、ニキビができやすくなったり、乾燥したり、肌が敏感になったりすることがあります。
歯茎からの出血: 妊娠中はホルモンの影響で歯茎が腫れやすく、出血しやすくなることがあります。
情緒不安定: ホルモンバランスの変化や体調不良から、イライラしたり、落ち込んだり、涙もろくなったりと、精神的に不安定になることがあります。
これらの症状はつわりに伴って現れることがありますが、全ての人に起こるわけではありません。
もしこれらの症状でつらさを感じる場合は、かかりつけの医師や助産師に相談してみましょう。
つわりの症状は個人差が大きく、同じ人でも日によって、あるいは妊娠によって症状が異なることがあります。
一つの症状だけでなく、複数の症状が同時に現れることも珍しくありません。
自分の体の変化を受け止め、無理せず過ごすことが大切です。
「これもつわりなんだな」と理解するだけでも、少し気持ちが楽になることがあります。
つわりはいつからいつまで?時期とピーク
つわりが始まる時期、症状が最も強くなる時期(ピーク)、そして症状が落ち着く時期は、妊婦さんにとって最も気になる情報の一つです。
一般的に言われる時期の目安を知っておくことは、つらい時期を見通し、心の準備をする上で役立ちます。
つわりが始まる妊娠週数
つわりが始まる時期は個人差がありますが、多くの妊婦さんが症状を自覚し始めるのは妊娠5週頃からです。
これは、生理予定日を過ぎて妊娠が確認できるかどうかという時期にあたります。
妊娠検査薬で陽性反応を確認し、産婦人科を受診する頃に症状が出始める人が多いです。
妊娠5週頃は、胎嚢(たいのう:赤ちゃんが入る袋)が超音波検査で確認できたり、早い場合は胎芽(たいが:赤ちゃんの元)や心拍が確認できるかどうかというタイミングです。
この頃からhCGなどの妊娠維持に必要なホルモン分泌が急速に増加し始めます。
hCGの血中濃度の上昇が、つわりの引き金になると考えられているため、この時期に症状が出現しやすくなります。
早い人では、生理予定日前の妊娠4週頃から「なんかいつもと違うな」「胃がムカムカするな」といったごく初期の兆候を感じ始めることもあります。
これは、受精卵が着床し、hCGの分泌が始まったサインである可能性があります。
逆に、妊娠6週や7週になってから突然症状が出始めるという人もいます。
妊娠が確定したばかりの時期に体調の変化を感じたら、「つわりかな?」と考えて良いでしょう。
つわりのピークはいつ頃?
つわりの症状が最も強く現れる時期、つまりピークは、一般的に妊娠8週から10週頃と言われています。
この時期は、妊娠初期に急増するhCGの分泌量がピークに達する時期とほぼ一致します。
妊娠8週から10週頃は、胎児の主要な臓器(脳、心臓、手足の原型など)が急速に形成される非常に大切な時期でもあります。
母体のホルモン環境が最も大きく変動するため、つわりの症状も強くなりがちです。
吐き気や嘔吐が頻繁になったり、特定の食べ物やにおいが全く受け付けられなくなったり、強いだるさや眠気で一日中横になっていなければならなくなったりと、日常生活に支障が出やすくなります。
この時期に体重が減少しやすく、脱水にもなりやすいため、特に注意が必要です。
ただし、これもあくまで一般的な目安です。
ピークが妊娠6週頃と比較的早く来る人もいれば、妊娠11週や12週頃になってからピークを迎える人もいます。
ピークの時期や症状の強さ、持続期間は個人差が非常に大きいです。
「一般的なピーク時期なのに全然つらくない」「ピークのはずなのにまだ終わらない」と、周りの情報や平均値と比較して不安になる必要はありません。
ご自身の体調に合ったペースで過ごすことが大切です。
つわりが終わる時期・兆候
つわりの症状は、多くの妊婦さんの場合、妊娠12週から16週頃にかけて徐々に軽快し、自然に治まることが多いです。
この時期は、妊娠初期の不安定な状態から安定期へと移行する時期にあたります。
胎盤が完成し、胎児への栄養供給などの役割を胎盤が担うようになるため、hCGの分泌量が減少傾向に転じ、妊娠維持に必要なホルモンバランスも安定してくるからです。
「つわりが終わったかな?」と感じる兆候としては、以下のようなものが少しずつ現れ始めることが多いです。
- 朝の吐き気や日中のムカムカが軽減される。
- 吐く回数が減る、または全く吐かなくなる。
- 食べられるものの種類が増える。
食事を考えるのが苦痛でなくなる。 - 今までダメだった特定のにおいが気にならなくなる。
- 食欲が戻ってきて、おいしく食事ができるようになる。
- 体が軽くなったように感じる、だるさや眠気が軽減される。
- 一日中横になっている必要がなくなり、活動できる時間が増える。
- ごはんの炊けるにおいが平気になったり、調理ができるようになったりする。
これらの兆候が段階的に現れ始め、気づけば「あれ?もうつらくないかも」と感じる、というケースが多いです。
まるで魔法が解けたかのように、突然症状が消える人もいます。
しかし、こちらも個人差が大きく、中には妊娠20週を過ぎてもつわりが続く人や、出産まで全く治まらないという人もいます。
妊娠中期以降も吐き気や不調が続く場合は、つわり以外の原因(胃腸のトラブル、妊娠高血圧症候群など)も考えられるため、必ず医師に相談が必要です。
また、一度治まったように感じても、疲れやストレスなどが原因で一時的に症状がぶり返すこともあります。
一般的には妊娠4ヶ月(妊娠12週~15週)に入ると落ち着く人が多いため、「安定期に入る頃には楽になるだろう」という目安として捉えておくと、つらい時期の心理的な支えになるかもしれません。
つわりの期間に個人差がある理由
つわりが始まる時期、ピーク、終わる時期、そして症状の程度に大きな個人差があるのはなぜでしょうか。
これには、先ほど挙げた様々な原因が複雑に絡み合っていることに加え、以下のような要因が関係していると考えられています。
体質・遺伝的要因:
もともと乗り物酔いをしやすい人や、偏頭痛持ちの人、あるいは消化器系が敏感な人は、つわりが重くなりやすい傾向があると言われます。
自律神経の感受性や、脳の特定の領域の活動パターンなどが関連している可能性があります。
母親や姉妹につわりが重かった人がいる場合、本人もつわりが重くなる傾向があるという報告があります。
これは、hCGなどのホルモンに対する体の感受性や、つわりを引き起こしやすい体質が遺伝的に受け継がれる可能性を示唆しています。
ホルモンに対する感受性: hCGなどの妊娠ホルモンが分泌されても、それに対する体の反応や感受性は人によって異なります。
ホルモンの血中濃度が同じでも、体の反応が弱ければ症状は軽く、強く反応すれば症状は重くなります。
この感受性の違いが、つわりの程度や期間の個人差を生み出す大きな要因の一つと考えられています。
妊娠の経過:
多胎妊娠: 双子や三つ子など、お腹の中に複数の赤ちゃんがいる場合、胎盤の組織量が多いためhCGの分泌量が単胎妊娠よりも多くなります。
そのため、つわりが重くなりやすい傾向があります。
胞状奇胎: 胎盤となる絨毛が異常に増殖する病気で、hCGが非常に高値になります。
この場合も重度のつわり(妊娠悪阻)を引き起こしやすいです。
精神状態や環境要因: 妊娠に対する不安やストレスが大きい人、完璧主義な人、睡眠不足や疲労が溜まっている人などは、自律神経のバランスが崩れやすく、つわりの症状が悪化しやすい傾向があります。
また、つわりが重いことに罪悪感を感じたり、「みんなは大丈夫なのに」と比較して落ち込んだりすることも、精神的な負担となりつわりを長引かせる可能性があります。
逆に、リラックスできる環境にいたり、周囲のサポートを得られたりすると、症状が和らぐこともあります。
その他の身体的要因: 妊娠前の体重(痩せ型の方が重い傾向があるという報告も)、貧血の有無、甲状腺機能の状態などもつわりの症状に影響を与える可能性があります。
このように、つわりの期間や程度は様々な要因が絡み合って決まります。
他の人と比べて症状が軽いからといって心配する必要はありませんし、逆に重いからといって自分を責める必要もありません。
「つわりは自分と赤ちゃんのペースで起こるもの」と捉え、つらい時は無理せず、体の声に耳を傾け、適切な対処法を取り入れていきましょう。
つわりの原因と、なりやすい人
つわりは多くの妊婦さんが経験しますが、「なぜ自分だけこんなにつらいの?」「どうしてつわりがない人もいるの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。
つわりの主な原因と、つわりになりやすい人の特徴について詳しく見ていきましょう。
つわりの主な原因(ホルモン、自律神経など)
前述の「つわりの定義と発生メカニズム」でも触れましたが、つわりの主な原因として最も有力視されているのは、妊娠によって分泌されるホルモンの急激な変化です。
中でも、受精卵が着床後に胎盤から分泌されるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)が、つわりの発生に深く関わっていると考えられています。
hCGの血中濃度がピークを迎える時期とつわりのピークが一致することから、主要な原因物質と考えられています。
hCGは、妊娠初期に妊娠を維持するために必要なプロゲステロンの分泌を助けたり、母乳分泌の準備を促したり、胎児の成長をサポートしたりする重要な役割を果たします。
しかし、このhCGが脳の嘔吐中枢(延髄にある)を直接刺激したり、消化管の動きをコントロールするセロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質のバランスを崩したりすることで、吐き気や嘔吐を引き起こすと考えられています。
hCGの他にも、エストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンの増加も、胃腸の動きを鈍らせ、むかつきや胃もたれの原因となります。
つわりの原因はホルモンだけではありません。
以下の要因も複雑に絡み合って、症状の発生や程度に影響を与えています。
自律神経の乱れ: 妊娠による体の劇的な変化、ホルモンバランスの変動、そして妊娠への期待と不安といった精神的な側面が複合的に作用し、体温調節、血圧、消化器の働きなどを調整する自律神経(交感神経と副交感神経)のバランスが崩れやすくなります。
自律神経の乱れは、胃腸の異常な収縮や弛緩、胃酸分泌の過多や不足などを引き起こし、吐き気やむかつき、胃もたれ、げっぷ、便秘、下痢といった消化器症状につながります。
また、だるさや眠気、めまい、立ちくらみなども自律神経の乱れによる症状の一つです。
精神的・心理的要因: 妊娠に対する戸惑い、出産や育児への不安、つわりに対するネガティブな情報への接触などが、ストレスとなり自律神経をさらに乱し、つわりの症状を悪化させる可能性があります。
特に「つわりはつらいものだ」という強い思い込みや、つらい症状への過度な意識集中は、脳の働きを通じて症状を増強させる「不安症」のような側面を持つことも指摘されています。
ポジティブな考え方や、リラックスできる環境に身を置くことが症状緩和につながる場合があることからも、精神的な要因の関与が示唆されます。
糖代謝の変化: 妊娠初期は、インスリンの効きが悪くなる「インスリン抵抗性」が高まり、血糖値が不安定になりやすい時期です。
食後の高血糖状態から、比較的短時間で血糖値が急激に低下する反応性低血糖が起こりやすくなります。
低血糖状態は、吐き気、めまい、だるさ、発汗などの症状を引き起こすため、つわりを悪化させる要因となります。
特に空腹時につわりが強くなる「食べづわり」は、この低血糖を避けようとする体の反応と考えられています。
ビタミンB6不足: ビタミンB6は、脳内でGABAやセロトニンなどの神経伝達物質の合成に関わる補酵素です。
これらの神経伝達物質は、脳の嘔吐中枢の働きに関与しています。
妊娠中にビタミンB6の必要量が増加したり、つわりによる偏食で摂取量が不足したりすると、これらの神経伝達物質のバランスが崩れ、吐き気が誘発されやすくなる可能性が指摘されています。
このため、つわり治療にビタミンB6製剤が用いられることがあります。
免疫学的な要因: 妊娠初期には、母体の免疫系が半分が父親由来である胎児を異物と認識しないように、免疫応答を抑制する変化(免疫寛容)が起こります。
この免疫系の変化や、胎盤形成に伴う微細な炎症反応などが、つわりの症状として現れるという説もあります。
つわりが重い人ほど、胎盤形成がよりスムーズに進んでいるという報告もあり、つわりが妊娠の順調さを示す指標の一つである可能性も示唆されています。
これらの多様な要因が複雑に相互作用し、つわりの症状の種類、程度、そして期間の個人差を生み出していると考えられています。
つわりになりやすい人の特徴チェックリスト
つわりは多くの妊婦さんが経験しますが、特に症状が出やすい、あるいは重くなりやすい人にはいくつかの統計的な傾向や特徴があると言われています。
あくまで可能性であり、必ずしも当てはまるわけではありませんが、ご自身の体質や状態をチェックしてみましょう。
過去の妊娠でつわりが重かった経験がある:前回の妊娠でつわりがひどかった人は、今回も重くなる傾向が統計的に高いです。
体の反応パターンが似ていると考えられます。
母親や姉妹につわりが重かった人がいる:血縁者につわりが重かった人がいる場合、遺伝的な体質やつわりを引き起こすホルモンや神経伝達物質に対する感受性が似ている可能性があります。
乗り物酔いをしやすい体質である:乗り物酔いも自律神経の乱れや平衡感覚の過敏さが関わっており、つわりと共通の体質を持つ可能性があるため、つわりでも同様の症状が出やすい傾向があります。
偏頭痛持ちである:偏頭痛も血管や神経系の感受性が関与しており、つわりと関連性が指摘されることがあります。
神経質・心配性である、ストレスを感じやすい:精神的なストレスやつわりへの強い不安は、自律神経をさらに乱し、症状を悪化させる可能性があります。
完璧主義な人や、物事を深く考えすぎる人も当てはまることがあります。
睡眠不足や疲労が溜まっている:体の抵抗力が落ちていたり、自律神経が乱れやすくなっていたりするため、つわりが出やすくなり、また重症化しやすいと言われます。
多胎妊娠である:双子や三つ子などの場合、胎盤組織が多くhCGの分泌量が単胎妊娠よりも格段に多いため、つわりが非常に重くなる傾向があります。
非喫煙者である:喫煙者よりも非喫煙者の方がつわりが重い傾向があるという報告があります。
タバコに含まれるニコチンがつわりの症状を抑えるという説がありますが、喫煙は妊娠中の母子に多くの健康リスクをもたらすため、つわり対策として推奨されるものでは断じてありません。
妊娠前のBMIが低い・体重が少ない(痩せ型):痩せ型の人の方がつわりが重い傾向があるという報告がありますが、明確なメカニズムは不明です。
初めての妊娠である:初めての妊娠では、体が経験したことのないホルモン変化や体調の変化に戸惑いやすく、精神的な不安も大きくなりがちなため、つわりが出やすい、あるいはつらく感じやすいという傾向があります。
上記のチェックリストに当てはまる項目が多いからといって、必ずしもつわりが重くなるわけではありません。
また、一つも当てはまらなくてもつわりが起こることは十分にあります。
これらの特徴はあくまで統計的な傾向として理解し、過度に心配せず、ご自身の体の変化に注意を払い、必要に応じて休息をしっかりとることが大切です。
つわりがない人もいる?
「周りの友達や家族はみんなつらそうだったのに、自分には全然つわりがない…もしかして、赤ちゃんが育っていないんじゃないか?」と心配になる妊婦さんも少なくありません。
しかし、つわりが全くない人や、ごく軽い症状で済む人もいます。
つわりがないことは、決して異常なことではありません。
つわりの症状が出るかどうか、その程度は前述のように様々な要因によって決まります。
hCGなどのホルモンに対する体の感受性が低い、もともと自律神経が安定している、精神的にあまりストレスを感じていないなど、様々な体質的な理由が考えられます。
また、つわりがない人でも、妊娠初期には子宮が大きくなることによる下腹部痛や、眠気、だるさといった他のマイナーな症状を感じていることもあります。
つわりがないからといって、妊娠が順調に進んでいないわけでは決してありません。
つわりがないことが、胎児の成長に何か悪影響を与えるという医学的な根拠もありません。
むしろ、つわりがない分、母体への負担が少なく、食事からしっかり栄養を摂れるため、妊娠期間をより快適に過ごせるメリットがあるとも言えます。
心配しすぎてストレスを溜める方が、かえって体によくありません。
ただし、妊娠初期に一時的に症状があったのが、急に全くなくなった場合は、流産など妊娠の継続に問題が生じた可能性もゼロではありません。
特に、それまであった胸の張りや基礎体温の上昇といった妊娠のサインも同時に消えた、少量の出血が見られた、といった症状を伴う場合は注意が必要です。
心配な場合は、自己判断せずにかかりつけの産婦人科医に相談することをおすすめします。
医師による超音波検査などで、赤ちゃんが順調に育っていることを確認できれば、安心して過ごせるでしょう。
多くの場合は心配ありませんが、専門家の意見を聞くことで不要な不安を取り除くことができます。
つわりがある人もない人も、赤ちゃんの成長は十人十色です。
ご自身の体のサインを大切にし、不安があれば遠慮なく医療機関に相談しましょう。
「つわりがないのはラッキーなんだ」と前向きに捉えることも大切です。
つらいつわりを乗り切る対策と対処法
つわりの症状が出ている間は、日常生活を送るのもつらく感じるかもしれません。
食事が摂れず体力も落ち、精神的にも不安定になりがちです。
しかし、少しでも症状を和らげ、つらい時期を乗り切るための様々な工夫や対処法があります。
ここでは、ご自宅で実践できる具体的なセルフケアを中心に解説します。
食事の工夫(食べやすいもの、タイミング)
吐き気や食欲不振がある中で、全く食べないのは体に負担をかけますし、空腹が吐き気を悪化させることもあります。
無理のない範囲で、食べやすいものを選んだり、食べるタイミングを工夫したりすることで、必要最低限のエネルギーと栄養を摂取し、吐き気の軽減を目指しましょう。
少量ずつ頻回に食べる: 一度にたくさんの量を食べると胃が重くなり、消化に時間がかかり、吐き気を誘発しやすいです。
食事の量を減らし、1日5~6回(場合によってはそれ以上)に分けて、ちょこちょこと何かを口にするようにしましょう。
空腹すぎると胃液が上がってきて気持ち悪くなることがあるため、完全に胃が空っぽになる前に何か少しでも入れておくことが大切です。
「食べたいもの」を優先する: 栄養バランスを完璧に考えるのは難しい時期です。
無理に特定の栄養素を摂ろうとしたり、苦手なものを我慢して食べたりする必要はありません。
この時期は「食べられるもの」を最優先にしましょう。
特定の栄養素が不足しても、短期間であれば母体の蓄えや、つわりが落ち着いた後の食事で補えます。
罪悪感を感じる必要はありません。
冷たいもの、さっぱりしたもの、特定の味(酸味、塩味など)のものが食べやすい人が多いです。
冷たいものやあっさりしたものを選ぶ: 温かい食べ物はにおいが立ちやすく、そのにおいが吐き気を強く誘発することがあります。
ゼリー、フルーツ、ヨーグルト、プリン、アイスクリーム、冷たい麺類(そうめん、うどん)、おにぎり、サンドイッチなど、冷たいものやにおいの少ないもの、あっさりしたものが食べやすい傾向があります。
野菜スティックなどもおすすめです。
酸味や塩味のあるものを試す: 柑橘類(レモン、オレンジ、グレープフルーツなど)、梅干し、酢の物、ピクルス、フライドポテト、塩せんべい、クラッカーなど、酸味や塩味のあるものが口の中をさっぱりさせ、食べやすいと感じる人もいます。
炭水化物を活用する: 食欲がないときは、ご飯、パン、麺類、クラッカー、じゃがいもなどの炭水化物中心の食事になりがちです。
炭水化物は手軽なエネルギー源として重要なので、食べられるものを食べましょう。
全粒穀物を選ぶとビタミンや食物繊維も摂れますが、無理は禁物です。
水分も少量ずつ: 食事とは別に、水分もこまめに少量ずつ摂ることが大切です(後述)。
食前や食中に水分を摂りすぎると、胃が膨れて吐き気につながることがあります。
「ながら食べ」も効果的: テレビを見ながら、本を読みながら、音楽を聴きながらなど、食事以外のことに意識をそらしながら食べることで、吐き気を感じにくくなることがあります。
食事の準備の工夫: 料理のにおいがつらい場合は、換気を徹底したり、においの少ない料理(冷製スープ、サラダなど)を選んだり、パートナーや家族に料理を頼んだりするのも良い方法です。
つわり中の食事工夫の例
タイミング | おすすめの食べ物・飲み物 | ポイント |
---|---|---|
起床時すぐ | クラッカー、ビスケット、一口おにぎり、バナナ、飴、炭酸水 | 空腹時の吐き気を和らげる。 枕元に置いておき、目が覚めたらすぐに口にすると良い。 胃に何か入れることで血糖値の急降下も防ぎます。 |
食事の間隔に | ゼリー、ヨーグルト、飲むヨーグルト、フルーツ(柑橘類、いちごなど)、野菜スティック、スープ | 少量でも何か口に入れることで、空腹による吐き気を防ぐ。 冷たいものやさっぱりしたものがおすすめ。 ゼリー飲料は水分とエネルギー補給にも便利。 |
食事時 | おにぎり(具なしや梅干し)、素うどん、冷製パスタ、サンドイッチ(ハムや卵などあっさり系)、茶碗蒸し、豆腐、冷奴 | においが少なく、あっさりしたものが食べやすい傾向。 主食を優先し、タンパク質源として豆腐や卵などを少量加えると良い。 |
デザート・おやつ | フルーツ、シャーベット、アイスクリーム、ゼリー、プリン、フライドポテト、塩せんべい | 食事があまり摂れなくても、デザートやおやつなら食べられることも。 気分転換にも。 塩分や糖分が摂れるものも体調によっては有効。 |
就寝前 | 少量のおにぎり、クラッカー、ビスケット | 夜間や起床時の空腹を防ぐ。 |
この時期は「きちんとバランス良く食べなきゃ」と気負いすぎず、「食べられるものを、食べられる時に、無理なく食べる」ことを最優先に考えましょう。
無理は禁物です。
脱水を防ぐ水分補給
つわりで吐き気や嘔吐が続くと、食事が摂れないだけでなく、水分も十分に摂れずに脱水状態になってしまう危険性があります。
脱水はつわりをさらに悪化させ、強いだるさ、めまい、頭痛を引き起こすだけでなく、母体にも胎児にも危険な状態(血栓症のリスク増加など)を招くこともあります。
意識的な水分補給は、この時期の母体の健康維持のために非常に重要ですし、妊娠悪阻への移行を防ぐためにも不可欠です。
少量ずつ頻回に飲む: 一度にたくさんの量を飲むと胃が急に膨らみ、吐き戻しやすいので、一口、二口程度の量を頻繁に口にするようにしましょう。
コップ一杯の水を一気に飲むのではなく、時間と時間をかけて少しずつ飲み続けるイメージです。
冷たい水分を試す: 冷たい飲み物は、温かい飲み物よりもにおいが少なく、喉越しが良いため、比較的飲みやすい傾向があります。
氷をなめるのも、少量ずつ水分を補給できるため効果的です。
凍らせた果物やジュースなどもおすすめです。
飲みやすいものを見つける: 水以外にも、麦茶、ルイボスティー、薄めたイオン飲料(スポーツドリンク)、経口補水液、炭酸水、フルーツジュース(薄める)、スープ、ゼリー飲料など、ご自身が飲みやすいと感じるものを見つけましょう。
市販のイオン飲料は糖分が多いものもあるため、成分を確認したり、水で薄めたりして調整するのも良いでしょう。
経口補水液は脱水が疑われる場合に有効ですが、味が独特で飲みにくいと感じる人もいます。
においを避ける: 飲み物のにおいが気になる場合は、ストローを使ったり、蓋つきのコップを使ったり、ボトルから直接飲んだりするなど、においを嗅がずに飲める工夫をするのも有効です。
吐いてしまっても諦めない: 飲んでもすぐに吐いてしまうという状況でも、諦めずに少量でも口に入れる努力を続けることが大切です。
「飲んでもどうせ吐くから」と全く飲まなくなると、急速に脱水が進んでしまいます。
たとえ少量でも、口から入れることで胃腸が刺激され、少しずつ慣れてくることもあります。
ただし、全く水分が摂れない状態が数時間以上続く場合は、速やかに医療機関に相談が必要です。
水分摂取の目安: 一日に最低でも1.5リットル程度の水分を摂ることが推奨されますが、つわりの時期にこの目標を達成するのは難しいこともあります。
無理のない範囲で、少しでも多くの水分を摂ることを意識しましょう。
尿の回数や色(色が濃い場合は水分不足のサイン)、口の中の乾燥具合などを目安に、水分が足りているか確認しましょう。
水分補給は、食事以上に重要かもしれません。
脱水を防ぐことが、つわりの症状悪化を防ぎ、妊娠悪阻への移行を防ぐためにも非常に大切です。
常に手元に飲み物を置いておき、こまめに口にする習慣をつけましょう。
生活習慣の見直し(休息、ストレス軽減)
つわりの時期は、体力が落ち、心身ともに疲れやすくなっています。
無理せず体を休ませることが何よりも大切です。
疲労やストレスはつわりを悪化させる大きな要因となり得ます。
生活習慣を見直し、心身を労わりましょう。
十分な睡眠と休息: 体がだるく、強い眠気を感じやすい時期です。
夜はしっかり睡眠時間を確保し、日中も疲れたら横になって休むようにしましょう。
昼寝も積極的に取り入れてOKです。
特に食後や、つわりの症状が強く出る時間帯には、無理せず休息する時間を作りましょう。
横になるだけでも体の負担は軽減されます。
無理な活動は避ける: つらい時は家事や仕事を無理してこなす必要はありません。
「ここまでやらなきゃ」と完璧を目指すのはやめましょう。
できる範囲のことだけをこなし、できないことはパートナーや家族に助けを求めましょう。
家事代行サービスや宅配サービスなどを利用するのも良い方法です。
仕事をしている場合は、体調に合わせて休暇を取ったり、時短勤務やリモートワークなどの制度を利用したりすることを検討しましょう。
ストレスを溜め込まない: つわりのつらさ、思うように動けないことへの焦り、妊娠や出産への不安、周囲との比較などがストレスになることがあります。
ストレスは自律神経を乱し、つわりを悪化させる可能性があります。
信頼できるパートナーや家族、友人、先輩ママなどに話を聞いてもらったり、好きな音楽を聴いたり、アロマテラピーを取り入れたり、軽いストレッチやウォーキングをしたりするなど、ご自身なりのリラックス方法を見つけましょう。
我慢しすぎず、感情を表に出すことも大切です。
適度な気分転換: 体調が良い時は、無理のない範囲で散歩に出かけたり、外の空気を吸ったり、日差しを浴びたりするなど、気分転換を図るのも有効です。
人混みやタバコの煙、強い香水など、ご自身が不快に感じるにおいのある場所は避けた方が良いかもしれません。
短時間でも好きなことに没頭したり、趣味を楽しんだりする時間を持つことも大切です。
体を締め付けない服装: 体を締め付ける服装は、お腹や胃を圧迫し、吐き気やむかつきを悪化させることがあります。
ゆったりとした楽な服装を選びましょう。
締め付けの少ない下着や、マタニティウェアなどを活用すると快適に過ごせます。
環境を整える: 部屋の換気をこまめに行い、新鮮な空気を取り入れましょう。
部屋の温度や湿度を快適に保つことも大切です。
光や音に敏感になる人もいるので、刺激の少ない落ち着ける環境を整えましょう。
この時期は「妊娠しているんだから頑張らなきゃ」と思わず、「今は赤ちゃんを育む大切な時期だから、自分の体を一番にいたわろう」「何もしなくてOK」と割り切る気持ちが大切です。
完璧を目指さず、心身ともにリラックスして過ごしましょう。
症状別の対処法(吐き気、においなど)
つわりの様々な症状に対して、それぞれ特化した対処法を試してみるのも有効です。
ご自身の症状に合わせて、色々な方法を試してみてください。
吐き気・むかつき:
- 空腹を避ける: 空腹が吐き気を誘発することが多いので、起床前にベッドサイドでクラッカーやビスケットなどを食べる習慣をつけましょう。
少量でも胃に何か入れることで、吐き気が和らぐことがあります。 - 胃を刺激しない: 熱すぎるものや冷たすぎるものは胃を刺激しやすいので避けましょう。
また、脂っこいもの、香辛料の強いもの、消化の悪いもの(揚げ物、生ものなど)は胃に負担がかかるため避けた方が無難です。 - 食後すぐは横にならない: 食後すぐに横になると、胃酸や胃の内容物が食道に逆流しやすくなり、胸焼けや吐き気を誘発します。
食後しばらく(30分〜1時間程度)は座って過ごすか、軽く体を起こして休むようにしましょう。 - げっぷは我慢しない: 胃に溜まったガスはげっぷとして出す方が楽になることが多いです。
- 飲み物を工夫: 炭酸水や薄めたジンジャーエール(生姜には吐き気を抑える効果があると言われますが、カフェインを含むものは避けましょう)、冷たい緑茶や麦茶などを少量ずつ飲むのが効く人もいます。
- アロマテラピー: 柑橘系(レモン、オレンジ)、ミント系(ペパーミント)、ジンジャーなど、ご自身が心地よく感じる香りのアロマオイルをハンカチに垂らして嗅いだり、アロマディフューザーを使ったりすることで、吐き気を和らげる効果が期待できます。
ただし、妊娠中に使用を避けるべきアロマもあるため、専門家や信頼できる情報を参考にしましょう。 - ツボ押し: 手首の内側にある「内関(ないかん)」というツボは、乗り物酔いや吐き気に効くと言われています。
このツボを刺激するリストバンド(つわりバンド)も市販されています。
効果には個人差がありますが、試してみる価値はあります。
においへの過敏さ:
- 換気を徹底: 料理中や食後は、換気扇を回したり窓を開けたりして、においが部屋にこもらないようにしましょう。
- においの少ない食品・料理を選ぶ: 肉や魚を避けて植物性タンパク質(豆腐など)を利用したり、加熱調理よりも生食や冷たい料理(サラダ、冷製スープなど)を選んだりするのも有効です。
- におい対策グッズ: 冷蔵庫やゴミ箱には消臭剤や重曹などを置き、におい対策を徹底しましょう。
生ゴミはこまめに捨てるか、密閉できる容器に入れましょう。 - 生活用品の見直し: 洗濯洗剤や柔軟剤、シャンプー、石鹸などを無香料や低刺激のものに変えてみるのも良いでしょう。
- 外出時の対策: 外出時はマスクを着用し、マスクの内側に柑橘系などのアロマスプレーを軽くつけたり、ご自身が好きな香りのハンカチを持ち歩いたりすることで、不快なにおいをガードできます。
- パートナーや家族への協力: パートナーや家族に、特定の食品を避けてもらったり、調理やゴミ捨てなどを代わりにやってもらったりすることを具体的に伝えましょう。
眠気・だるさ:
- 昼寝をする: 無理せず昼寝をする時間を作りましょう。
たとえ短時間でも体を横にするだけで疲労感は軽減されます。 - カフェインを控える: コーヒーや紅茶、エナジードリンクなどに含まれるカフェインは、妊娠中は摂取量が推奨されています(一般的に一日200mg以下)。
また、カフェインで無理に眠気を覚ますと、かえって後で反動で強い疲労感を感じることがあります。
ノンカフェインの飲み物を選びましょう。 - 軽い運動: 体調が良い時は、無理のない範囲で軽いストレッチやウォーキングを行うことで、血行が促進され、だるさが軽減されることがあります。
- 入浴: 熱すぎない湯加減でゆっくりと入浴したり、シャワーを浴びたりすることで、リフレッシュし、体の血行を良くすることができます。
ただし、体調が悪い時は無理せず、体を温めすぎないように注意しましょう。
ご自身に合う対処法を見つけることが大切です。
色々な方法を試してみて、少しでも楽になるものを取り入れていきましょう。
効果は個人差があり、また日によって効果が変わることもあります。
うまくいかない時も自分を責めず、「今日は仕方ない」と割り切ることも大切です。
つわり薬の選択肢
つわりがあまりにもつらく、上記のようなセルフケアだけでは乗り切れない場合、医師に相談してつわり薬を処方してもらうという選択肢もあります。
つらい症状を我慢しすぎることは、母体への負担が大きく、精神的にも追い詰められてしまいます。
妊娠悪阻に進行するリスクを減らすためにも、適切な医療的なサポートを受けることをためらわないでください。
海外、特に北米などではつわり(妊娠悪阻)治療薬として承認され、広く使われている薬があります。
これはジメンヒドリナート(Dimenhydrinate)とピリドキシン塩酸塩(Pyridoxine Hydrochloride:ビタミンB6)の合剤です。
ジメンヒドリナートは抗ヒスタミン薬の一種で吐き気を抑える作用があり、ビタミンB6はつわりの吐き気を軽減する効果が期待されています。
この合剤は妊娠中の使用に関する安全性が確認されており、米国産科婦人科学会(ACOG)の妊娠悪阻治療指針でも第一選択薬の一つとして推奨されています。
日本では、つわり治療として以下のような薬が処方されることがあります。
ビタミンB6製剤: ビタミンB6の不足がつわりを悪化させる可能性があることから、単独または他の薬と併用して処方されることがあります。
比較的安全性が高いと考えられています。
制吐剤: 吐き気を抑えるために、プロクロルペラジンやドンペリドンなどの制吐剤が処方されることがあります。
妊娠中の使用経験が比較的多く、安全性が確認されている薬が選択されます。
点滴で投与されることもあります。
漢方薬: 半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)や小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)など、吐き気や不安を和らげる効果があるとされる漢方薬がつわりに処方されることがあります。
漢方薬は体質に合わせて選ばれるため、医師や漢方医に相談が必要です。
つわり薬に関する注意点
必ず医師に相談する: 市販薬を自己判断で使用したり、インターネットなどで購入した海外の薬(個人輸入)を使用したりするのは非常に危険です。
偽造薬である可能性や、妊娠中に安全性が確認されていない成分が含まれているリスクがあります。
必ず産婦人科医に相談し、ご自身の症状や状態に合った、安全性が確認された薬を処方してもらいましょう。
これらの薬の使用や、妊娠悪阻のより詳細な診断・治療指針については、厚生労働省の『妊娠悪阻(HG)診療ガイドライン』や日本産科婦人科学会の診療ガイドラインなども参照してください。
妊娠悪阻の治療: 重症の妊娠悪阻(脱水や体重減少が著しい状態)の場合、薬物療法だけでなく、点滴による水分、電解質、ブドウ糖、ビタミン(特にビタミンB1)の補給が必須となります。
入院が必要となることもあります。
薬はあくまで症状緩和の一助であり、点滴の方が迅速かつ確実に母体の状態を改善できます。
効果と副作用: 薬には効果だけでなく、眠気や口の渇きなどの副作用のリスクもあります。
医師から薬の効果や考えられる副作用について十分に説明を受け、メリットとデメリットを理解した上で使用を検討しましょう。
全てのつわりに効果があるわけではありません。
不安な気持ちを伝える: 薬を使うことへの抵抗や不安がある場合は、その気持ちを正直に医師に伝えましょう。
医師は患者さんの気持ちに寄り添いながら、最適な治療法を一緒に考えてくれます。
つらいつわりに我慢しすぎる必要はありません。
母体の健康は、赤ちゃんの健やかな成長にとっても非常に大切です。
適切な医療的なサポートを利用することも、つわりを乗り越えるための大切な選択肢の一つです。
周囲の理解とサポート
つわりは、妊婦さん本人にしかそのつらさが分からない、という性質を持っています。
見た目には分かりにくいため、周囲にそのつらさが伝わりにくく、「怠けている」「気のせいでは?」などと誤解されてしまうこともあります。
しかし、つわりの期間は心身ともに非常にデリケートな状態であり、周囲の理解とサポートを得ることは、つらい時期を乗り切る上で非常に重要な力になります。
パートナーとの共有: 最も身近な存在であるパートナーに、つわりの症状や、それによって何がつらいのか(例: 料理のにおいがダメ、起き上がるのがつらい、特定のものが食べたい・食べられないなど)を具体的に、正直に話しましょう。
つわりの原因や、いつまで続くかといった一般的な情報も共有することで、パートナーも状況を理解しやすくなります。
そして、家事(料理、洗濯、掃除、ゴミ捨て)や食事の準備、買い物、上の子のお世話など、手伝って欲しいこと、協力して欲しいことを具体的に伝えましょう。
「何かできることある?」と聞かれても、具体的に思いつかないこともあるので、「〇〇してくれたら助かる」とリストアップして渡すのも良い方法です。
家族の協力: 実家が近い場合は、両親や兄弟姉妹など、頼れる家族に相談し、サポートをお願いするのも良いでしょう。
食事を作ってもらったり、掃除を手伝ってもらったり、話し相手になってもらったりするだけでも助けになります。
上の子がいる場合は、保育園や一時預かりを利用したり、家族に面倒を見てもらったりすることも検討しましょう。
遠慮せず、「助けて欲しい」と伝える勇気を持ちましょう。
職場への相談: 仕事をしている場合は、上司や同僚に妊娠とつわりの状況を伝え、理解を得ることが大切です。
業務内容の調整(においの強い場所での作業を避けるなど)や、休憩時間の確保、体調が悪い時の早退や欠勤について、また可能であればリモートワークや時短勤務の活用などについて具体的に相談しましょう。
制度として用意されている場合もあるので確認してみてください。
母性健康管理指導事項連絡カード(医師に記載してもらい、職場に提出することで、妊娠中の健康管理のために必要な措置を受けることができる制度)を利用することも有効です。
友人や先輩ママとの交流: 同じ時期に妊娠した友人や、つわりを経験した先輩ママと交流することで、つらさを分かち合ったり、具体的な対処法のアドバイスを得たりすることができます。
共感してもらえるだけでも、精神的に大きな支えになります。
一人で抱え込まない: つらい気持ちや不安を一人で抱え込まず、パートナー、家族、友人、かかりつけの医師や助産師、自治体の相談窓口(母子健康包括支援センターなど)などに話を聞いてもらいましょう。
話すだけでも、気持ちが整理されたり、安心できたりすることがあります。
つわりは「怠け」ではない: つわりの症状は、本人の意思でコントロールできるものではありません。
「頑張れば乗り越えられる」「他の人は平気なのに」などと思わず、ご自身の体が必要としている休息やサポートを素直に受け入れましょう。
これは母体と赤ちゃんを守るために必要なことです。
つわりは一時的なものですが、その期間は精神的にも肉体的にも大きな負担となります。
周囲の理解とサポートを得ることは、つらい時期を乗り切る上で非常に重要な力になります。
遠慮せず、困っていることを伝え、助けを求めましょう。
医療機関に相談すべきケース(妊娠悪阻など)
「つわりは生理現象だから多少つらくても我慢するものだ」と思われがちですが、症状が重い場合は医学的な治療が必要な「妊娠悪阻(にんしんおそ)」である可能性があります。
つわりと妊娠悪阻は連続した状態であり、境目が明確ではありませんが、妊娠悪阻は母体の健康状態に悪影響を及ぼすため、適切な医療的な介入が必要です。
以下のような症状が現れた場合は、決して自己判断せず、速やかにかかりつけの産婦人科医に相談してください。
受診を検討する症状
つわりから妊娠悪阻へと進行している可能性を示すサインとして、以下の症状が挙げられます。
これらの症状は、母体が脱水状態になり、栄養不足が進んでいることを示しており、放っておくと母子ともに危険な状態を招くことがあります。
一つでも当てはまる場合は、迷わず受診しましょう。
全く水分が摂れない: 24時間以上、飲んでもすぐに吐いてしまい、水分がほとんど口から摂れない状態が続いている。
飲み物を見るだけで気持ち悪くなる、という場合も含まれます。
体重が大幅に減少した: 妊娠前の体重から5%以上(一般的に3~5kg以上)減少している場合、妊娠悪阻である可能性が高いです。
急速な体重減少は母体の栄養状態が悪化していることを示します。
尿量が著しく減った、または全く出ない: 水分が摂れないことによる重度の脱水状態を示しています。
尿の色が非常に濃い、排尿の回数が極端に少ない、数時間以上全く排尿がない、といった場合は危険なサインです。
頻繁に嘔吐を繰り返す: 一日に何度も(例えば10回以上)、あるいはほとんど常に吐いている。
吐いても吐き気が全く治まらず、苦しい時間が続いている。
立ちくらみやめまいがひどい: 脱水や栄養不足による低血糖、血圧の低下などが原因で起こります。
起き上がったり立ち上がったりするのが困難なほどのめまいは注意が必要です。
強い倦怠感でほとんど起き上がれない、体がだるくて動けない: 重度の疲労や栄養不足を示唆します。
一日中ベッドから出られず、日常生活(洗顔、着替えなど)も困難な状態。
血を吐いた、またはコーヒーのカスのようなものを吐いた: 頻繁な嘔吐によって食道や胃の粘膜が傷つき、出血している可能性があります。
黒っぽい吐瀉物(コーヒーのカスのようなもの)は、胃の中で出血した血液が胃酸と混ざって酸化したサインかもしれません。
意識が朦朧とする、呼びかけへの反応が鈍い: 重度の脱水や電解質異常、脳の機能障害(ウェルニッケ脳症など)が原因で起こる緊急性の高いサインです。
すぐに救急車を呼ぶか、病院に連絡して指示を仰いでください。
脈が速い(頻脈)、動悸がする: 脱水や貧血、心臓への負担増加を示唆します。
唾液過多が非常にひどい: 唾液を飲み込むこともできず、常に吐き出しているような状態。
脱水につながる可能性があります。
尿検査でケトン体が陽性に出る: 病院や自宅で検査できる尿検査でケトン体が陽性に出る場合、体がエネルギー源として脂肪を分解しているサインで、栄養不足が進んでいることを示します。
これらの症状は、母体が脱水状態になり、必要な栄養や電解質が不足し、体力が著しく低下していることを示しています。
この状態が続くと、母体への臓器への負担が増加したり、胎児の成長に必要な環境が悪化したりする可能性もゼロではありません。
つわりのつらさは主観的なものですが、客観的に見て上記のような状態であれば、それは「つらい」のレベルを超えた「医学的な介入が必要なサイン」であると認識してください。
我慢は禁物です。
病院での診断と治療
医療機関(産婦人科)を受診すると、まず医師(または助産師)が問診を行います。
つわりの症状の種類、程度、いつから始まったか、一日のうちで特に症状が強い時間帯、食事や水分摂取の状況、嘔吐の頻度や量、体重の変化、排尿の状況、その他の体調の変化(だるさ、眠気、頭痛、めまいなど)について詳しく聞き取られます。
また、妊娠の経過や既往歴(過去の病気や手術、アレルギーなど)、現在服用している薬についても確認されます。
その後、医師が必要と判断した場合、以下のような検査が行われます。
体重測定: 妊娠前からの体重減少率を確認します。
血圧・脈拍測定: 脱水の程度や循環動態の状態を確認します。
尿検査: 尿中のケトン体の有無や量、尿糖、尿タンパク、比重などを調べ、脱水や栄養不足、妊娠悪阻の重症度を評価します。
ケトン体陽性は栄養不足の重要なサインです。
血液検査: ヘモグロビン値(貧血の有無)、電解質(ナトリウム、カリウム、クロールなど)のバランス、腎機能(クレアチニン値など)、肝機能(AST, ALTなど)、血糖値、甲状腺ホルモン値、hCG値などを調べ、全身状態を評価し、つわり以外の原因(例えば甲状腺機能亢進症など)を除外します。
超音波検査: 胎児の成長や心拍を確認し、妊娠が順調であるか、多胎妊娠や胞状奇胎などのつわりが重くなる可能性のある原因がないかを確認します。
これらの問診と検査結果を総合して、つわりなのか、あるいは妊娠悪阻なのかを診断し、重症度を評価します。
妊娠悪阻の診断基準や治療については、厚生労働省のガイドラインや日本産科婦人科学会の診療ガイドラインなどで詳細に示されています。
妊娠悪阻と診断された場合、症状の程度に応じて以下のような治療が行われます。
点滴による水分・電解質・栄養補給: 最も一般的で重要な治療法です。
水分(生理食塩水やブドウ糖液)、電解質(ナトリウム、カリウム、クロールなど)、そしてブドウ糖、アミノ酸、ビタミン(特にビタミンB1)などを点滴で補給します。
脱水や栄養不足、電解質異常を迅速かつ確実に改善し、母体の状態を安定させることを目指します。
ビタミンB1は、重度の妊娠悪阻による栄養不足から起こる可能性のある脳の機能障害(ウェルニッケ脳症)を予防するために非常に重要であり、点滴に必ず添加されます。
日本産科婦人科学会のガイドラインでは、入院による持続点滴療法の具体的な実施方法が解説されています。
制吐剤(吐き気止め)の投与: 吐き気や嘔吐を抑えるために、点滴や内服、坐薬などで制吐剤が投与されることがあります。
妊娠中でも胎児への影響が少ない、安全性が確認されている薬(例: プロクロルペラジン、ドンペリドン、グラニセトロンなど)が選択されます。
入院による安静: 症状が重く、自宅での水分・栄養補給や安静が難しい場合、または点滴による治療が必要な場合は、入院して集中的な治療を行い、心身ともに安静を保つことが推奨されます。
入院することで、点滴による継続的な治療を受けられるだけでなく、家事や仕事から離れて休息に専念でき、精神的な負担も軽減されます。
日本産科婦人科学会の診療ガイドラインや厚生労働省のガイドラインでは、重症例の入院基準についても言及されています。
胃酸分泌抑制薬: 胸焼けや呑酸がひどい場合、胃酸の分泌を抑える薬が処方されることがあります。
漢方薬: 希望に応じて、つわりの症状緩和に効果があるとされる漢方薬が処方されることもあります。
入院期間は、母体の状態や症状の改善度合いによって異なりますが、多くの場合、点滴による治療で脱水や栄養状態が改善し、ある程度食事が摂れるようになれば退院できます。
退院後も、急に無理せず、医師や助産師のアドバイスに従って、少しずつ食事を摂る練習をしながら回復を目指します。
重症例における全身管理については、日本集中治療医学会の重症治療ガイドラインなども参考に、全身状態を慎重に管理します。
妊娠悪阻は、適切な時期に適切な治療を行えば回復することがほとんどです。
しかし、つらい症状を我慢し続け、治療が遅れると、母体や胎児に重篤な影響を及ぼす可能性もゼロではありません。
つらい症状に耐え続けず、「おかしいな」「いつもと違うな」「これはもう我慢できない」と感じたら、早めに医療機関を受診することが、母子の健康を守る上で非常に重要です。
医師や助産師は、つわりや妊娠悪阻に関する専門知識と経験を持っています。
つらさを一人で抱え込まず、遠慮なく相談しましょう。
受診することで、体の状態を客観的に評価してもらえ、適切なアドバイスや治療を受けることができ、大きな安心につながります。
まとめ:つわり期間との付き合い方
つわりは、妊娠によって起こる体の自然な変化に伴う症状であり、妊娠初期に多くの妊婦さんが経験するものです。
その症状や程度、期間には大きな個人差があり、全く症状がない人もいれば、日常生活が困難になるほど重症化する「妊娠悪阻」になる人もいます。
つわりの主な原因は、妊娠初期に急増するホルモン、特にhCGの変化と考えられています。
これに加えて、エストロゲンやプロゲステロン、自律神経の乱れ、精神的な要因、体質、糖代謝の変化などが複合的に関与しています。
症状としては、吐き気や嘔吐、胃や胸のむかつき・げっぷ、においへの過敏さ、食欲不振と食の好みの変化、眠気やだるさ(倦怠感)などが一般的です。
唾液過多や味覚の変化なども起こることがあります。
つわりが始まるのは妊娠5週頃が多く、妊娠8週から10週頃にピークを迎え、妊娠12週から16週頃に落ち着くことが多いですが、この時期にも個人差があります。
つわりの期間や程度は、体質や遺伝、多胎妊娠の有無、精神状態など、様々な要因によって異なります。
つわりがないからといって心配する必要はありませんし、つわりが重くても自分を責める必要はありません。
つらいつわりを乗り切るためには、無理せず体を休ませることが最も大切ですし、最も効果的な対処法の一つです。
十分な睡眠と休息を確保し、無理な活動は避けましょう。
食事は「食べられるものを、少量ずつ頻繁に」摂り、特に脱水を防ぐための水分補給を意識しましょう。
冷たいもの、さっぱりしたもの、においの少ないものなどが食べやすい傾向があります。
においを避ける工夫をしたり、ご自身が心地よく感じる香りを活用したりするのも有効です。
アロマテラピーやツボ押しなども試してみる価値はあります。
この時期は精神的にも不安定になりがちです。
ストレスを溜め込まず、ご自身なりのリラックス方法を見つけましょう。
パートナーや家族に体調やつらさを正直に伝え、家事や育児、仕事などのサポートをお願いし、一人で抱え込まないことも非常に重要です。
周囲の理解と協力を得ながら、この時期を乗り越えていきましょう。
セルフケアだけではつらすぎる場合や、全く水分が摂れない、妊娠前からの体重が5%以上減少した、尿量が著しく減った、立ちくらみやめまいがひどい、強い倦怠感で起き上がれない、血を吐いた、意識が朦朧とする、尿検査でケトン体陽性が出たなどの重症化サインが見られる場合は、我慢せずに速やかに医療機関を受診してください。
それは単なる「つわり」ではなく、医学的な治療が必要な「妊娠悪阻」かもしれません。
病院では、厚生労働省や日本産科婦人科学会のガイドラインに基づき、点滴による水分や栄養、電解質、ビタミン補給、制吐剤の投与、または入院による安静などで、母体の状態を改善することができます。
重症例の管理については、日本集中治療医学会のガイドラインも参考に適切に行われます。
早期に受診し、適切な治療を受けることが、母子の健康を守る上で非常に重要です。
医師や助産師は、つわりや妊娠悪阻に関する専門知識と経験を持っています。
つらさを一人で抱え込まず、遠慮なく相談しましょう。
受診することで、体の状態を客観的に評価してもらえ、適切なアドバイスや治療を受けることができ、大きな安心につながります。
つわりの期間は、体調が優れず、思うように動けず、精神的にも落ち込みやすい時期かもしれません。
しかし、このつらい時期は通常一時的なものです。
赤ちゃんを迎えるための大切な準備期間として、ご自身の体と心の声に耳を傾け、無理せず、できる範囲で乗り切っていきましょう。
つらい時は「つらい」と声を上げ、困った時は、かかりつけの産婦人科医や助産師、地域の相談窓口(母子健康包括支援センターなど)などを遠慮なく頼ってください。
周囲のサポートも借りながら、この時期を乗り越えていきましょう。
つわりを乗り越えた先には、新しい命との出会いが待っています。
免責事項: 本記事に記載された情報は一般的な知識であり、医学的なアドバイスではありません。
個々の症状や状況に必ずしも当てはまるものではなく、診断や治療の根拠となるものではありません。
つわりや妊娠中の体調に関するご心配や具体的な症状については、必ず医師や専門家にご相談ください。
本記事の情報に基づいて行った行為によって生じた損害については、一切の責任を負いかねます。